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入院日記 11日目

うす。
本日ここまで便3回血便なし、平熱で腹痛もなく好調です。



「鈴木さ~ん、朝食で~す」

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来たか。
もはや逡巡はなく、手に取ったのはヨーグルト×2+マンゴー。
すべてを配合し、ほぼ完全に本体の風味を隠した液体を飲み干す。
最後のエレンタールはウイニングランに近く、心は極めて平静だった。
かつておれの心を砕いた巨大な獣の姿は、もはや腰を曲げた老人にすら見えた。



再び昼を待つ。じっと昼を待つ。
粥スタートと言われている限り重湯ということはないだろう。
おおよそ三分粥だろうがもしかしたら一気に五分粥から始まるかも知れない。
あ~どっちかなどっちかな、ワクワクするな。三分かな五分かな三分かな五分かな
「鈴木さ~ん検温しますね~あっ今日のお昼から三分粥なんですね、よかったですね~」

…あっさり看護師さんにネタバレを喰らう。もうちょっとだけワクワクさせてほしかった。
まぁいいや、これで変に期待をしなくて済むかもしれない。
そして、今後栄養の点滴は一切なくなるらしい。
点滴は1日1回のステロイド輸液のみでずいぶん身軽になることになる。
移動範囲も広がったし、昼間は院内を散歩するのもいいかもしれない。



そして昼すぎ、いよいよ配膳車のガラガラが聞こえてくる。
思わずビクリと身を起こしてしまい、冷静になる。
まだだ、違うぞ。まだだ。落ち着け。

「鈴木さ~ん、お食事で~す」

あ、どもっす。お疲れ様です。いただきます。
はっきり言って跳び跳ねんばかりの心境だったが、極めて冷静であるかのように振る舞う。
良くも悪くも自分が日本人だということを自覚する。
本当はめちゃくちゃ喜びたいし騒ぎたいし周りに自慢したかった。おれがデトロイト産まれだったらよかったのに。
いや、この喜びは目の前のものにぶつけよう。



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配膳されたものは
・三分粥200g
・ナスの煮浸し(を細かく砕いたやつ)
・野菜とエビのコンソメ煮(を細かく砕いたやつ)
・ツナとトマトのサラダ(を細かく砕いたやつ)
・リンゴゼリー

待望していたものがいよいよ目の前に運ばれてきても、思ったより感動はなかった。
前情報を入れがちなおれの悪い癖だ。未予習なら感動のあまり泣きすらしたかもしれないのに、初見の極蛮神程度なら2~3度実際に見れば突破できてしまうくらいガッツリ予習してしまった。
三分粥の時点ではおかずの大半が消化しやすいよう細かく砕かれている。逆にこれは予習のおかげで落胆は一切なかった。


ともかく食べよう。匙を持つ手が震える。
まずは三分粥を一口。
…分かっていたことだが、決して美味しくはない。
だが、しっかり甘い。ちゃんと米の味だ。エレンタールのようないかにも人工の味ではないし、なにより暖かいものを噛んで食えるというのが嬉しい。
野菜のエビの煮込みはジャガイモと玉ねぎニンジンが入っていて食べごたえがあった。エビが苦手なので逆に細かくなっていて良かったかもしれない。
ナスはシンプルな味付けでうまいし、ツナとトマトは爽やかで存在感があった。
どれもこれも薄味だがウマい。噛んで食えるということは幸せだ。



…よく噛んで食べていたつもりだったが、あっという間に食べきってしまった。
最後に残ったリンゴゼリーに口をつける。

…ウオッ甘っ!甘い!甘い食いもんだ!!
いいのかこれ!いいのか!?こんなうまいもん食って今いいのか!?
大丈夫か!?またおれ地獄に落ちたりしねぇよな!?大丈夫なんだな!?




…もうおれ一生これでいいわ。リンゴゼリーが一番ウマい。一生リンゴゼリー食います。
一応今日の昼の本来の献立を確認すると、今日はハヤシライスの日だったらしい。
…アブねぇ、超が8個はつく大好物だ。
もし今日もエレンタールだったら発狂していたかもしれない。間に合った形か。



食って横になると一気に落ち着き、すさまじい満足感に襲われる。
もうおれはここで足を止めてもいいとすら思う。
あまり見ない、年のいった看護師がやってきて、盆を下げ際に言う。

「あら~良かったわね~人間らしいもの食べれて」



…あ?



なんだこのババア?



絶食してっと人間扱いされねぇのか?



なんでこんな無神経なバカがこの仕事やれてんだ?



それともこいつはデブでヒゲ生えてると人間として認められない地域で育ったのか?



…危なかった。おれがデトロイト産まれだったら即座に発砲していただろう。
入院生活をしているとなにが引き金になるかわからんが、あまりに無神経だ。友人ならまだしも看護師がしていい発言じゃない。
しかし、おれは今めしを食って機嫌がいい。すべて赦そう。ババアに祝福あれ。



「鈴木さ~ん、お食事ですよ~」
あっという間に夜だ。同じく三分粥食が配膳される。

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夜の献立は
・三分粥200g
・里芋の煮っ転がし(を細かく砕いたやつ)
・野菜とエビの煮物(を細かく砕いたやつ)
・かれいの煮付け(を細かく砕いたやつ)
・パイナップル(を細かく砕いたやつ)
・キャロットゼリー


野菜とエビの煮物は玉ねぎとニンジンが入っていた。
三分粥食においてはこの辺はかなり定番のようだ。とりあえずレベル35まではワイン拾っとけみたいな感じだろう。
里芋の煮っ転がしは砕かれててもあんまり元と変わらん気がする。ねっとりしていてウマい。
かれいの煮付けは砕かれているため逆に食べやすくていい。
おれは魚は好きなんだけど、刺身以外は正直あんまり好んでは食べない。
ほぐすのがめんどうだし、そのめんどくささを乗り越えてまで食べたいとは思えないし、焼き魚や煮付けになってる魚を見ると正直魚がもったいないとさえ思うことすらあるアッめっちゃウマいわかれいの煮付け。薄味だけどしっかり甘辛くてほどよく脂がのっててこの10日絶対味わえなかったやつだぁ。
ああめっちゃウマい。噛めば噛むほどウマいわ。飲み込めんこれ。めっちゃウマい。



…おれもう一生かれいの煮付けでいいわ。かれいの煮付けとリンゴゼリーでいいです。もうこれ以上求めないです。
幸せだ。もう何もしたくない。
昼も思ったが、もうここで終わりでもいい。
ここで足を止めてもいい。退院もしなくていい。
思えば看護師が色々と世話を焼いてくれるし、居心地もいい。
ずっと入院していてもいいんじゃないか?そうすればなにもしなくてもいいし、日々の飯を待つだけでいい。
あぁ、眠くなってきた。眠くなったら寝よう。おれはもう、三食を待つ豚でいい…。







…待てよ?
もしかして、昼間のあのババアはおれを叱咤しにきたのか?
昼間にも微かに「足を止めてもいい」という思考に至ってしまったおれに「人間は考える足であるということを思い出せ。思考を放棄した人間はただの豚だ」ということを言いに来たのか?
合点がいった。
あのババア、超一流の看護師だったのか。
身体のケアだけでなく、思考のマネージメントまでこなすとは恐れ入った。
わかったぜ。おれはもうこんなところで満足したりしないぞ。
サンキューババア。目が覚めたぜ。おれにはまだ、ずっと先があるんだからな。



ブーッブーッブーッ

看護師さん「はーい鈴木さんお呼びですかぁ?」

???「あの、お粥、ちょっとうすくて…あの、なんでもいいんですけど、お醤油とか塩とかつけていただけたりって…」

看護師さん「すいませんけどそれも込みで調整されてるんで我慢してくださいね」

???「そ、そうですよね。あたりまえですよね。すいません、へへ…」

看護師さん「じゃ、またなんかあったら呼んでくださいね」

ブツッ



コメントくれた人らサンキューサンキュー、うんこは食ったもんだけじゃなくて腸内細菌の死んだのとか細胞の入れ替わったのとかで結構出ます。
点滴減ったり飯食えたりで退院が近づくのがわかってうれしいすね。
あしたは透析のやつなんでスマブラの発表見たら寝ましょうね。また明日。
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コメント

生きがい

  • 2020/01/16 (Thu) 22:45
  • #-
  • URL
No title

初めて書き込みします。
お食事の写真を見て思わず涙ぐんでしまいました。

  • 2020/01/16 (Thu) 22:52
  • #-
  • URL

めでてえ 成人男性が粥食って喜ぶのでこんなに幸せになると思わなかった
やさしいお味に慣れてくれ どうか病院から出てそのままジャンクフード食べないでくれ

  • 2020/01/16 (Thu) 22:53
  • #-
  • URL
No title

「おれがデトロイト産まれだったらよかったのに。」ってタイトルの曲か小説でデビューしてほしい。

絶食したあとの食レポって美しいんだなあ。

  • 2020/01/16 (Thu) 22:55
  • #8w8Th2ek
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No title

粥良かったなあ

↑のひとのコメントでもあったけどジャンクフード食べないでくれっていう気持ちと
ババアのラーメン食べてくれっていう気持ちが拮抗している
どうしたらええんや

  • 2020/01/16 (Thu) 23:04
  • #-
  • URL

面白かった。おめでとうすじさん…

  • 2020/01/16 (Thu) 23:11
  • #-
  • URL

すじさんおめでとう!お粥が出てきた瞬間涙ぐんでしまった。
いつの間にかこんなに感情移入させられてたんだなぁ

  • 2020/01/16 (Thu) 23:11
  • #-
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退院してばばあのラーメン食ったらウマく感じんのかな

  • 2020/01/16 (Thu) 23:17
  • #-
  • URL

ほんとによかったなあ、おめでとう
日に日に文章に磨きがかかってて伸びしろの化け物みたいだ
しかし一つだけ言わせてもらうと人間は考える「葦」だ
明日も楽しみにしてっから

  • 2020/01/16 (Thu) 23:20
  • #-
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なんだかんだで前向きなの偉いと思う
あと三週間頑張れ

  • 2020/01/16 (Thu) 23:40
  • #-
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No title

飯くえてよかったなすじさん
俺は嬉しいよ

  • 2020/01/16 (Thu) 23:45
  • #-
  • URL

よかったねぇすじさん本当によかった
見ていてこっちまで幸せになってくるよ

  • 2020/01/16 (Thu) 23:48
  • #-
  • URL

ババアは退院した後の暴食の誘惑との戦いまで見越して憎まれ口を叩いたのかもしれない…「決してこの屈辱を忘れるな…」と。俺も最近暴食気味でヤバいからババアの言葉を胸に行くぞ。ババアin my heart.

  • 2020/01/17 (Fri) 01:42
  • #-
  • URL

なんか、もう、癒し。今日いち嬉しいわ。
よかったねすじさん。
なんだかんだいっても出来る子だって知ってるよ。がんばれ、がんばれ。

  • 2020/01/17 (Fri) 02:52
  • #-
  • URL

ナースコールのコーナー好き
せっかくなんでこの機会にしっかり健康になって娑婆に出てきてもらいたい。

  • 2020/01/17 (Fri) 03:19
  • #-
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すじさんの飯をハイパーハードボイルドグルメリポートで放送してほしい

  • 2020/01/17 (Fri) 05:08
  • #-
  • URL

「The・粗食」のはずなのに、この旨そうな食レポは何だ・・・。
復調が順調そうでなによりです。

これからは波乱は少なそうですが、日記楽しみにしてます。
ガンダムの例えは分かりません。
昨日の「はじめて化粧が上手くいったときはこんな気分なんだろうか。」は
最高でした。

  • 2020/01/17 (Fri) 07:05
  • #-
  • URL

すじさん食事解禁おめでとう
いっぱい食べて特大のうんこかましてくれよな

  • 2020/01/17 (Fri) 08:47
  • #-
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祝お粥!
点滴うんことお粥うんこで何か違いはあるのかな?

  • 2020/01/17 (Fri) 11:07
  • #-
  • URL

 三分粥おめでとうございます!まさかエレンタールなるものがあるとは…OS-1(経口補助水)も不味いらしいですけど、機能的に完璧なら何故味の方も完璧にしてくれないのか…謎過ぎますね。すずきさんの日記読んでると、何気ない医療人の一言が患者さんを傷つけることもあるんだなぁと感じました。長い入院生活で精神的な疲れもあると思いますが、元気に退院できる日が1日も早く来ること願ってます!

  • 2020/01/17 (Fri) 20:47
  • umeshuuta #-
  • URL

おいしいもの食べられて幸せ爆発、
こっちまで幸せお裾分けしてもらった気分です。
この経験もなんかの足しになるんだろうさ・・・。
どっかで書いてあったけど、「すじさんの病院日誌」
書き下ろし逸話+挿絵つきでコミケに出したら
マジで売れると思う。
何はともあれ、体調早うよくなりますように。
お大事にしてください。

  • 2020/01/17 (Fri) 22:00
  • #-
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